イントロダクション


 この世には、未だ科学では説明できない不可思議な出来事がある。予知、透視、テレパシー、瞬間移動といった超能力、悪霊が引き起こすとされるポルターガイスト現象、難病や怪我の治癒にまつわる宗教的な奇跡……etc。

しかし物理学を信奉するマーガレット・マシスン博士とその若き助手のトムにとって、それらは現実にありえないマヤカシにすぎなかった。彼らは科学力によって数えきれないほどの超常現象のペテンを見抜き、イカサマ超能力者の嘘を暴き出してきたのだ。そんな彼らの前に、恐るべき強敵が出現する。かつて一世を風靡したのちに突然引退を宣言し、30年以上も姿をくらませていた超能力者サイモン・シルバーが表舞台に復帰したのだ。やがてマーガレットは因縁あるシルバーの呪いに襲われたかのように倒れ、トムは奇妙な現象に悩まされながらも単身シルバーの調査に身を投じていく。はたしてシルバーの超能力は本物なのか。そしてシルバーが復活を遂げた真の目的とは……。

 型破りなシチュエーション・スリラー『[リミット]』で世界中のボックスオフィスを席巻させたロドリゴ・コルテス監督が放つ『レッド・ライト』は、「超能力者は実在するのか?」という誰もが好奇心をそそられる神秘的なテーマに挑戦し、荒唐無稽なフィクションとして扱われがちなモチーフをリアリスティックな視点で探求し、真偽入り混じる超能力の“すべて”を観る者に体感させていく。ちょっとした思い込みなどによって客観的事実を見誤りがちな人間の深層心理や脳のメカニズムにまで踏み込んだその内容は、奥深い知的スリルをも呼び起こしてやまない。これまでにない斬新な切り口の映像化を実現させたミステリー・エンターテインメントだ。

 本作にただならぬ重厚感を吹き込んでいるのが、映画界屈指のカリスマたるロバート・デ・ニーロだ。ただでさえ威厳ある風貌に黒いサングラスを着用した大物俳優が、不気味なまでにミステリアスなオーラを撒き散らしながら、超能力者シルバーを体現。“デ・ニーロ・マジック”ともいうべき怪演には並々ならぬ迫力がみなぎり、観る者を終始圧倒していく。  打倒・シルバーに燃える科学者チームにも、豪華な実力派俳優がキャスティングされた。鋭い洞察力で超常現象のカラクリを暴き続ける大学教授マーガレットに『エイリアン』『アバター』のシガーニー・ウィーバーが扮し、その若き助手にして頭脳明晰な激情家トムには『麦の穂をゆらす風』『インセプション』のキリアン・マーフィー。また、セレブとして名高いオルセン姉妹を姉に持ち、2011年の主演デビュー作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で一躍ハリウッドの注目株となった新星エリザベス・オルセンが、トムと親密になる女子大生サリーを演じているのも見逃せない。

 ちなみに題名の『レッド・ライト』には赤信号のほか、警告、不協和音、場違いなものといった意味がある。劇中に現れる“赤い光”の他にも、機器の故障、鳥の死骸といった謎めいた事象やアイテム、登場人物が何気なく発する意味深なセリフが巧妙な伏線として張り巡らされ、一瞬たりとも目が離せない。そしてクライマックスには、想像を絶する真実が解き明かされる大どんでん返しが炸裂。そう、この『レッド・ライト』はめくるめくイリュージョンやトリックアートのごとく、あらゆる観客の知覚を刺激し、あなたの感性そのものをテストする大胆不敵な野心作なのだ。