物語

ロドリゴ・コルテス監督が語る『レッド・ライト』=“赤い光”の意味

2010年にサンダンス映画祭で旋風を巻き起こし、世界中のボックスオフィスを席巻した『[リミット]』の撮影はバルセロナ郊外で行われたが、主演俳優ライアン・レイノルズは原題の『Buried(埋められた)』という言葉通り、埋められる苦しみを味わった。『レッド・ライト』のオリジナル脚本はロドリゴ・コルテス監督のデスクの上に置かれ、しばらくの間温存されていたが、『[リミット]』の成功が次に来たるべきものを呼び覚ましたと言っても過言ではないだろう。

探る映画でもある。現実を理解するためには、僕たちの脳を信用しすぎることはできない。なぜなら脳は、嘘をつく完璧なツールだからね。この映画は容易に解決しない難題だ。例えば写真を見ていて、そこには何かがあるべきだと思うが、何かおかしい。でも、それが何だかわからない。それを見つけようとする。それが“レッド・ライト(赤い光)”なんだ」。

さらに監督は、本作のストーリーと“赤い灯”との関わりについて具体的に解説する。「それらは小さな光る点で、何かがおかしいと告げている。映画の冒頭では、誰もが安心して見える。自分の場所がわかっている。あるいは、わかっていると感じている。でも中盤になると、観客は自分の意見を変えざるをえなくなる。その瞬間、彼らはどう考えるべきかわからない。あるいは考えるべきことはわかっていても、意見が常に変化していく。すると次に起こることに進むのは不可能になる。だから彼らは“赤い光”を探し始める。あるいは彼らが赤信号を発する人間になる。そして映画はゲームやアドベンチャーのようになっていき、誰もが自分の脳に疑いを抱き始める。なぜなら脳のメカニズムと知覚が、嘘をついていることに気づくからなんだ」。

豪華俳優陣を魅了した斬新かつ知的な脚本とロバート・デ・ニーロのキャスティング

コルテス監督の前作『[リミット]』は非常に切りつめた予算で作られ、主演俳優ライアン・レイノルズは17日間の撮影を孤独に過ごしたが、それとは対照的に前作の10倍のコストをかけた『レッド・ライト』の徹底したキャスティング・セッションは、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、そしてトロントで行われ、60名以上の俳優たち、4000人のエキストラが出演した。メインキャストには、キリアン・マーフィー、シガーニー・ウィーバー、ロバート・デ・ニーロ、トビー・ジョーンズ、エリザベス・オルセンといった一流の俳優たちが揃ったのだ。

「とてもエキサイティングで、チャレンジ精神にあふれた脚本だわ」。イカサマ超常現象を調査するマーガレット・マシスン博士に扮したシガーニー・ウィーバーが語る。「コルテス監督が創造しようとしたのは、何が真実かわからない超常現象の世界なの。映画全体がサスペンスに満ち、私たちが見たり聞いたり知っているものとは違う何かがあるのか、それを問いかけ、見つけ出そうとしている」。マシスン博士の相棒トム・バックリー役のキリアン・マーフィーも脚本を絶賛する。「見事に書かれた知的な脚本だ。会話もすばらしいし、観客に挑戦すると同時に、エンターテイメント性にも優れている。僕自身、映画館に行って観たい映画だよ。本当に卓越した脚本だ。レイヤーが幾層にも重なり、今起こっていると思っているすべてのことが変化する。自分で物語を組み立てながら見ているのに、そのシーンを常に信用することができない。そこがとても気に入っているんだ」。

とりわけ豪華キャストの中で異彩を放っているのが、サイモン・シルバー役のロバート・デ・ニーロだ。この謎に満ちた超能力者について、演じた本人が語る。「シルバーは魅力的なキャラクターだと思う。ミステリアスだが何年もの間ヒーロー的な存在で、マジシャンであり、心を読むメンタリストでもある。そのすべてが興味深く、このキャラクターの中でとても知的に合体している。とても面白いよ」。一方、コルテス監督は、シルバー役にはデ・ニーロならではの“大物感”が必要不可欠だったと言う。「シルバーは30年間も公の場から退いていたが、どこからともなく再び現れる。まだ、その理由はわからない。しかし、その重みを理解してもらうには大物が必要だった。もちろんロバート・デ・ニーロは大物だ。彼が現れた瞬間にその重みがわかる。30年間、ある分野で最高だった男。それには声や外見がモノを言うから、大きな動きをする必要はない。シルバーは抑制のきいた男だ。その重みを脅威や危険と考える者もいるし、チャーミングだと受けとめる者もいる。シルバーは完璧にメディアを掌握し、次の瞬間には冷酷になれる男なんだ」。

超常現象という題材を物理的に扱ったバルセロナでの活気に満ちた撮影

撮影は10週間半かけて、バルセロナやトロントのさまざまなロケーションで行われた。コルテス監督は自らの脚本を映像化するに当たって、「この映画のすべてを物理的にしたかった」という。「この映画にはポリティカル・スリラーのようなところがある。知覚がはっきりと理解できる。物理的で、触れることができ、信憑性のある映画にしたかった。例をあげると『ポルターガイスト』がそうだ。僕は、あの映画の最初の部分が大好きなんだ。とても物理的だからね。フットボールのヘルメットを被って女の子が床に座っている。そして床をスライドしていく。ゴーストの手がテレビから突き出してくる霊的な表現よりもはるかにいいんだ」。

「特別で、才能あふれる監督だよ。僕が仕事をした中でも最高の監督のひとりだ」。そうコルテスを評するC・マーフィーらのキャストは、バルセロナでの撮影を心から楽しんだ様子である。「コルテス監督と製作のエイドリアン・グエラの映画作りはすごいと思う。彼らは母国語でスペイン人のスタッフを使って撮影するから、誰にもストレスがない。それが最高の雰囲気を作り出す。すべてが最高の映画作りを可能にするため、作品のためなんだ。アメリカやロンドンからやってきた僕らにはとても新鮮だった。映画はこういうふうに撮影されるべきだという見本だよ」。

そう語るマーフィーも、S・ウィーバーも「超常現象を信じますか?」という問いには、懐疑的な答えを返してきた。ウィーバーが言う。「私は映画の最初の頃に、マシスンが語った言葉に同意するわ。彼女は脳の機能について、どれほど驚くべき能力があるかを語っているの。まったく耳が聞こえない人が傑作を作曲したりとか、世界はすでに奇跡に満ちていると思う。どうしてほかの次元を探さなくてはいけないのかしら。私にとっては自然こそがすばらしい経験だし、虹も、激しい雷雨も、火山も、海だってそう。私にはすでにすばらしい世界があるから、私たちの世界と共存している別の世界を探そうとは思わないわ」。続いてマーフィーが語る。「すべての分野をとても魅力的にしているものは、人々が必死になって信じたいと願う心だと思う。どんな理由にせよ、どんな感情にせよ、エキサイティングなものにせよ、別の次元に人々は心を奪われるんだ。それが死後の世界でも、何であってもね。そこにドラマを連想するんだよ。ただし僕個人としては、まだ納得していないけどね」。